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Column

奈良の社寺とお酒の深い関係

2023/1/20

日本酒(清酒)造りのルーツは、奈良にあるのをご存じでしょうか?

 

県内には、酒造りゆかりの地が数多くあります。
中でも、奈良市内には日本最古の酒醸造の建物「酒殿(さかどの)」が残る春日大社と、「日本清酒発祥之地」の碑が建つ菩提山(ぼだいさん)正暦寺(しょうりゃくじ)があり、社寺でお酒が造られてきた歴史を垣間見ることができます。

 

 

 

 

 

古来、全国の主要な神社で、御神酒(おみき)として酒造りが行われていましたが、明治以降も途絶えることなく酒造りを続けているのは春日大社だけです。
平安時代の貞観元年(859)創建の酒殿(重要文化財)は、春日大社御本殿の回廊西側に位置し、日本最古の醸造建築でありながら今も現役。
毎年2月上旬~3月上旬にかけ、3月13日の例大祭「春日祭」に供える御神酒が、奈良豊澤酒造(奈良市)の杜氏(とうじ)により造られています。

 

 

奈良豊澤酒造での酒造りの様子
写真提供:奈良豊澤酒造株式会社

 

酒殿のお酒について、春日大社の秋田真吾さんは「お米の粒が残ってドロドロの濁酒(にごりざけ)です。酵母が生きており、発酵し続ける生きたお酒です。昔は、お酒を食べると言ったそうですが、まさにそんな感じ。口当たりは良いですが、アルコール度数が高いです」と教えてくれました。

 

3月上旬頃に訪れると、酒殿からお酒の香りがふんわり漂ってきます(内部非公開)。

 

 

日本の清酒造りの原点は中世の奈良に

 

室町時代、伽藍維持の財源確保のため、僧坊酒(そうぼうしゅ)と呼ばれるお寺の酒造りが全国的に行われていました。
現在は奈良市東南の山間に佇む正暦寺ですが、室町時代には、興福寺の末寺として広大な寺領を持っており、その維持のために酒造りが盛んに行われ、日本最大の酒造地でした。
そのため、お酒の質を保って安定的に大量生産し、長期保存する必要性から、正暦寺で「お酒の産業革命」と言える技術革新が起きたのです。

 

近年、古文書『御酒之日記(ごしゅのにっき)』など、さまざまな文献から、正暦寺で近代清酒醸造の基礎となる酒造技術が確立したことが判明。
銘酒として記録が残る正暦寺の僧坊酒「菩提泉(ぼだいせん)」は、火入れ殺菌された「透明な清酒」でした。米や麹のどろっとした食感の「どぶろく」と呼ばれる古代から飲まれていた濁酒(にごりざけ)とは、見た目も醸造工程も異なります。

 

写真提供:正暦寺

 

酵母菌を大量培養するための「酒母(しゅぼ)」(菩提酛ぼだいもと)を造る「菩提酛造り」、精白米を用いて透明度の高い酒を造る「諸白(もろはく)造り」、同じ味を大量生産できる「三段仕込み」、腐敗防止のための「火入れ」といった正暦寺で行われた技術は、質の高い澄んだお酒を安定生産する「清酒造り」の原点でした。そのため正暦寺は日本清酒発祥の地として知られています。

 

 

約600 年前の酒造りが復活

 

正暦寺での清酒造りは、室町時代から約150年続きましたが、江戸時代に途絶えてしまいました。

しかし、平成8年に復元プロジェクト「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」が発足。
3年間の尽力により、平成10年に境内の岩清水から、酒母「菩提酛」になる乳酸菌が発見されました。
その後、毎年1月開催の「菩提酛清酒祭」では、酒母(菩提酛)の仕込みが行われ、同会所属の7つ酒蔵(発足当時は15社)がその酒母を持ち帰り清酒を醸造しています。

令和3年には、室町時代と同じ製法の「菩提泉」も復活。7つの酒蔵による菩提酛仕込みのお酒は、同寺の福寿院客殿で購入することができます。

 

福寿院 外観

福寿院 外観

 

正暦寺の大原弘信住職は、清酒造りの原点である菩提酛造りについて「正暦寺の僧侶が紹興酒(しょうこうしゅ)の造り方を応用したのではないかと言う研究者もいます。熟成させると旨味が出る紹興酒と似た造り方だから、長期保存すると旨いんです」と語ってくれました。

 

春日大社、正暦寺での酒造りの技術は、周辺地域に広がっていったと考えられています。
江戸時代初期、奈良は日本最大の酒産地だったと言われており、「南都諸白(なんともろはく)」の名で知られた奈良酒は「下り酒」と呼ばれ、江戸へ上等酒として運ばれました。

 

福寿院 客殿

福寿院 客殿

 

春日大社には、江戸時代のならまちにあった酒蔵が奉納した石燈籠が数多く残っており、往時の隆盛を偲ばせます。

 

地下水が豊富な春日山の麓に位置するならまちは、明治以降にも酒造メーカーが軒を連ねていました。
奈良のお酒の歴史に触れ、味わい、体験しながら、ならまちを巡ってみませんか?

 

 

Shoryaku-ji Temple

 

 

 

 

※当記事は観光情報誌『ならり』vol.33からの抜粋です。掲載内容は2022年8月現在のものです。

 

 

 

 

 

【ならまち×奈良のお酒 その①】
奈良の社寺とお酒の深い関係

 

 

 

【ならまち×奈良のお酒 その②】
ならまちで味わう お酒いろいろ

 

 

 

【ならまち×奈良のお酒 その③】
ならまちから少し足をのばして! 文化人・芸術家が愛した高畑へ

 

 

 

【ならまち×奈良のお酒 その④】
教えて、奈良屋本店さん!奈良漬Q&A

 

 

 

【ならまち×奈良のお酒 その⑤】
奈良の地酒の特徴は?