奈良と菓子 はじまりの物語
日本の饅頭発祥の地と伝わる奈良。
巡り来る季節や風土とともに受け継がれてきた銘菓は、今も昔も人々の暮らしを豊かにしてきました。
伝承に彩られた〝奈良の和菓子〟の物語。
ぜひ、ご一緒に紐解いてみませんか。
〈メイン写真〉
初夏をイメージした上生菓子、藤波(写真:手前)、花あやめ(写真:奥)
※商品は季節により異なります 協力:御菓子司 鶴屋徳満(つるやとくまん)
INDEX
神様に供えられた菓子
奈良のまちを歩くと、和菓子の店が多いことに気づきます。和菓子の歴史は長く、奈良の歴史とも深くかかわっています。
飛鳥時代~平安時代にかけて、遣唐使の往来により、中国(唐)から唐菓子が伝わりました。平安時代の代表的な辞書『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』では、様々な菓子を紹介しており、その中に唐菓子の一種である餢飳(ぶと)について「油で煮た餅也」という記述があります。
この古代菓子は、朝廷に献上されただけでなく、1000年以上を経た今も、春日大社で神饌(しんせん)として神事のたびに作られています。
室町時代になると、奈良で林浄因が日本で初めて甘い饅頭を考案。ほどなく、「侘茶(わびちゃ)の祖」村田珠光(むらたじゅこう/しゅこう)が基礎を確立し、千利休が大成した茶の湯(茶道)の流行も、和菓子が広く知られるきっかけとなりました。
時代別に見てみよう【古墳~室町時代】
古墳時代 神話にみる菓子のルーツ
菓子とは本来、果物や木の実のことでした。『古事記』や『日本書紀』によると、垂仁天皇のために、田道間守が常世の国から持ち帰った「非時香果(ときじくのかぐのこのみ)=橘(たちばな)の実」が菓子の始まりと伝わります。

垂仁天皇陵 田道間守陪塚(すいにんてんのうりょう たじまのまもりばいちょう)
垂仁天皇陵の周濠(しゅうごう)に浮かぶ陪塚(お墓)とされています。濠の外には、菓祖神(かそじん)田道間守命御塚拝所の石碑も。
飛鳥時代〜平安時代 遣唐使が伝えた唐菓子(とうがし/からがし)
和菓子の成り立ちに影響を与えたのが、古代中国(唐)から伝来した生地をこねて作る唐菓子「餢飳(ぶと)」。穀物の粉を練って成形し、ごま油で揚げたものです。春日大社では今も、毎月執り行われる3回の旬祭や神事のたびに神職が神饌(しんせん)として作っています。

ぶと饅頭
春日大社の許可を得て、餢飳を現代風にアレンジした揚げ饅頭。小豆のこし餡を包んでカラリと揚げ、砂糖をまぶした銘菓。包み紙には、春日大社の社紋「下り藤」が描かれています。
室町時代 奈良は日本の饅頭発祥の地
1349年、中国(元)から帰国した禅僧と共に日本に渡って来た林浄因(りんじょういん)。一族と共に奈良の林小路(現在の林神社周辺)に住み、中国のマントウ※に挟む具材を肉食禁忌の風習に習い、小豆の餡(あん)に代えて考案。「奈良饅頭」と呼ばれ、人気を得ました。
※マントウ(饅頭):中国の小麦粉を発酵させて蒸した蒸しパン。中華点心の一種。そのまま食べたり、肉や野菜を挟んで食べる。

復刻 奈良饅頭
江戸時代の古文献を参考に再現した元祖の饅頭で、紅粉で一点を打った薯蕷(じょうよ)饅頭。林神社(りんじんじゃ)漢國神社内(かんごうじんじゃない)にて毎年4月19日に行われる「饅頭祭」で限定販売されます。 売り切れ次第終了。
甘味の雑学
古代の甘味料 「甘葛煎(あまづらせん)」
冬季のナツヅタの樹液を煮詰めて作る甘葛煎は、古代日本で使われていた甘味料です。
長屋王邸跡から出土した木簡に「甘葛」の記述があり、平安時代には清少納言の『枕草子』にも登場。
その後、砂糖の普及により姿を消し、江戸時代には原料や製造方法が分からなくなっていましたが、極寒時のナツヅタの樹液が十分な甘さを持つことが、奈良女子大学などによる近年の研究で分かりました。
江戸時代に饅頭が人気となった背景
和菓子が飛躍的な発展を遂げたのは江戸時代と伝わります。
1567(永禄10)年、永禄の兵火により東大寺の大仏さまは溶け崩れましたが、1691(元禄4)年に修理は完了。翌年の開眼供養の折、参詣人で空前の賑わいを見せました。
当時の奈良町(現在のならまち・きたまちエリアを含む)には、25軒の饅頭屋があったと『大仏殿再建記』に記録されています。饅頭はそこで人気となり、全国に広がったようです。
また、江戸後期に刊行された地誌『大和名所図会』には、春日大社ゆかりの焼き饅頭「火打焼(ひうちやき)」を楽しそうに頬張る人々が描かれています。
奈良には、今も多くの和菓子店があり、伝統を守りながら新たな銘菓を生み出しています。
時を超え、奈良に息づく和菓子を訪ねて、往時をしのびながら散策してみてはいかがでしょうか。
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※店舗・商品情報は変更となる場合があります。最新の情報は、各店舗のウェブサイトやSNSをご確認ください
※当記事は観光情報誌『ならり』vol.38からの抜粋です。掲載内容は2025年2月現在のものです
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