奈良市内の千年仏に出会う

奈良時代に官大寺として創建されたお寺には、奈良の歴史を物語る仏像が安置されています。

その中から、東大寺と興福寺で千年以上祈りを捧げられてきた至宝の仏さまをご紹介。

東大寺 ー天平の息吹を今に伝える祈りの世界ー

東大寺は度々天災や失火などで被災した諸伽藍の修復・再建をしてきました。

平安時代末期の平家による南都焼き討ちでは伽藍の大半が焼けてなくなりましたが、奈良時代の仏像を安置する法華堂と、転害門(てがいもん)は天平期から焼けずに残り、今日まで大切に受け継がれています(いずれも国宝)。

天平期の美を伝える救済の仏さま

不空羂索観音立像(ふくうけんさくかんのんりゅうぞう)

【国宝】 奈良時代 脱活乾漆造

像高362cm


法華堂の本尊・不空羂索観音立像は天平期の作。

悩める人々を救い上げる仏さまとして信仰されてきました。

羂索(縄)を手に持ち、目が3つ、手が8本の三目八臂(さんもくはっぴ)の姿からは、厳かな雰囲気が伝わってきます。

合掌している手には水晶の宝珠が挟まれ、宝冠にはヒスイや水晶など1万数千個の宝石が散りばめられて、天平彫刻の精巧な技を見ることができます。


拝観場所:東大寺法華堂(三月堂)


(写真提供:飛鳥園)

写実的で表現豊かな菩薩像

月光菩薩立像(がっこうぼさつりゅうぞう)

【国宝】 奈良時代 塑像

像高207.2cm


2mを超える塑像で、古代中国の貴人風の服装と頭頂に結った髷(まげ)の姿。ふっくらとした頬と切れ長の目、胸の前で合掌する柔らかな手の表現など、写実を特徴とする天平期の造形美と優雅さが感じられます。

創建当初は不空羂索観音立像の脇侍(わきじ)として日光菩薩立像とともに両脇に安置されていた可能性があります。


拝観場所:東大寺ミュージアム


(写真提供:飛鳥園)

仏教世界を護る四天王像の傑作

四天王立像(広目天)(してんのうりゅうぞう(こうもくてん))

【国宝】 奈良時代 塑像

像高169.9cm


甲冑姿に憤怒の表情で邪鬼を踏んでいる四天王立像。

持国天、増長天、広目天、多聞天の4体で構成されています。

写実的で迫力ある表現が特徴の広目天は、経巻と筆を手に持ちキリッとした表情で遠くを見つめています。

四天王は仏界の四方を護る護法神として信仰され、中でも東大寺の像は天平彫刻の傑作として知られます。


拝観場所:戒壇院戒壇堂


(写真提供:東大寺)

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興福寺 ー国宝彫刻の登録数は国内最多の18件ー

興福寺はこれまで7度も大きな火災に見舞われましたが、阿修羅像をはじめ乾漆像は軽いため、何度も運び出すことができました。

太平洋戦争時、空襲や盗難から守るため、阿修羅像が吉野へ電車で疎開※2したことはあまり知られていません。

また東金堂前には、爆風よけや防火用として作られた水槽跡、北円堂や西室の周囲では防空壕とみられる穴も見つかっています。


※2=1945(昭和20)年、興福寺の阿修羅像は、帝国奈良博物館(現奈良国立博物館)

 に出陳されていたため、博物館から疎開。博物館寄託の諸寺仏像も分散疎開された

仏教を守護する三面六臂の神

阿修羅像(あしゅらぞう)

【国宝】 奈良時代 脱活乾漆造 像高153.4cm


乾漆八部衆※3 立像のうちの一つ。西金堂にまつられていたもの。

八部衆は釈迦如来の眷属(けんぞく)※4で、阿修羅は帝釈天と戦う戦闘神でしたが、仏法に帰依して守護神に。

3 つの顔と6 本の腕を持つ姿で憂いをおびた少年のような表情は、罪を改め仏教を信じるようになったことに由来すると言われています。


※3=仏教において釈迦の説法を聞き、仏法を守

護する八種類の神々の総称

※4=仏や菩薩など信仰の対象となる主尊に付き

従う存在のこと


拝観場所:興福寺[国宝館] 


(写真提供:飛鳥園)

眉目秀麗な白鳳の貴公子

銅造仏頭(どうぞうぶっとう)

【国宝】 飛鳥時代 銅造 像高98.3cm


かつて東金堂の本尊だった薬師如来像の頭部(もとは飛鳥の旧・山田寺に安置)。飛鳥時代から白鳳時代の彫刻技術や様式の変化を知るうえで重要な仏像です。

頭部の大きさから、丈六仏(じょうろくぶつ)※1だったと考えられています。

弧を描いた眉や切れ長の目、筋の通った鼻筋など、品のある顔立ちが特徴。

1937(昭和12)年の東金堂の解体修理で台座の内部から発見され、当時大きく報道されました。


※1=立像で1丈6尺(約4.8m)、坐像で8尺(約2.4m)の仏像。

 釈迦の身長が1丈6尺であるとされることに由来


拝観場所:興福寺[国宝館] 


(写真提供:飛鳥園)

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秋冬は、奈良の千年仏に出会う旅へ

紅葉シーズンの特別公開や秋の夜間拝観、年末のお身拭いなど、秋冬ならではの特別な出会いが叶う、仏さまとお寺を紹介します。

※拝観・特別公開については、最新の情報をご確認ください。

唐招提寺

拝観場所:唐招提寺 金堂

奈良時代に建立された国宝の金堂。

毎年12月には、諸仏のほこりを払う「お身ぬぐい」が行われる。

天平期の金堂に厳かな佇まいで鎮座

盧舎那仏坐像(るしゃなぶつざぞう)

【国宝】奈良時代 脱活乾漆造 像高300cm超


5mを超える光背に千体の化仏(けぶつ・現存するのは862体)を背負う本尊・盧舎那仏坐像。肩幅の広い体つきや厳しい表情など、鑑真和上がもたらした唐の様式を反映。


(写真提供:飛鳥園)

天平期の金堂に厳かな佇まいで鎮座

千手観音菩薩立(せんじゅかんのんぼさつりゅうぞう)

【国宝】奈良時代 木心乾漆造 像高536cm


高さ5m以上の立像で、多くの持物(じもつ)を持っています。当初は実際に千本の手があった希少な像の一つで、現在も953本が残っています。


(写真提供:飛鳥園)

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薬師寺

拝観場所:薬師寺 金堂

1976年に写経勧進により再建。

白鳳様式の本格的な堂宇として復興した金堂。

白鳳文化の最高峰と名高い美仏

薬師三尊像(やくしさんぞんぞう)

【国宝】 飛鳥時代

薬師如来坐像:銅造 像高254.7cm

日光菩薩立像:銅造 像高317.3cm

月光菩薩立像:銅造 像高315.3cm


葡萄唐草文様などが刻まれた国宝の台座に薬師如来、左右に日光・月光菩薩が立つ三尊像。鍍金が取れた銅造の肌は深い漆黒の輝きを放っています。薬師如来は半眼の品のある顔つきや手足に刻印された図柄など、白鳳文化の粋が集結。日光・月光菩薩像も優雅な姿で、調和のとれた三尊の美しさは格別です。


(写真提供:飛鳥園)

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大安寺

拝観場所:大安寺 讃仰殿

重要文化財の天平仏7体が揃うほか、大安寺の歴史や、出土した瓦などを展示。

風格が感じられる一木造の天平の秘仏

十一面観音立像(じゅういちめんかんのんりゅうぞう)

【重文】奈良時代 一木造 像高190.5cm


がん封じの仏さまとして信仰されている本尊・十一面観音立像(毎年秋に公開)。精巧に刻まれた胸飾りや流麗な天衣の表現などが、像の優美さを引き立てています。


(写真提供:大安寺)

風格が感じられる一木造の天平の秘仏

馬頭観音立像(ばとうかんのんりゅうぞう)

【重文】奈良時代 一木造 像高173.5cm


一般に馬頭観音は、頭上に馬頭をいただく忿怒の形相ですが、その馬頭がなく、かわりに胸飾りと足に蛇が、腰には獣皮をまとう珍しい姿をしています(毎年3月公開)。


(写真提供:大安寺)

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法華寺

拝観場所:法華寺 本堂

豊臣秀吉の妻・淀殿の寄進により1601(慶長6)年に再興された本堂。

堂内には奈良時代の維摩居士(ゆいまこじ)坐像(国宝)も安置。

光明皇后が蓮池を渡る姿を写した観音さま

十一面観音菩薩立像(じゅういちめんかんのんぼさつりゅうぞう)

【国宝】 奈良時代 一木造 像高100cm


法華寺の本尊・十一面観音菩薩立像は、光明皇后をモデルに刻んだと伝わっています。蓮池を渡る姿といわれ、今にも踏み出して歩きそうな右足に躍動感が感じられます。目鼻立ちのはっきりした顔や唇の紅の色、天衣をつまむ右手、ぴんと反らせた右足の親指など、秘仏として長年公開されていなかったため、制作当時の姿を今に伝えています(春と秋の特別開扉で公開)。


(写真提供:法華寺)

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正暦寺

拝観場所:正暦寺 本堂

1916(大正5)年に再建された本堂には平安時代の日光・月光菩薩立像も安置。

腰を掛けた珍しいスタイルの白鳳仏

薬師如来倚像(やくしにょらいいぞう)

【重文】 飛鳥時代 銅造 像高38cm


台座に腰を掛ける姿が特徴的な倚像(いぞう)の形の金銅仏。高さ38 ㎝と小ぶりながらも美しさと存在感が感じられます。左右の足は踏み割り蓮華に乗せており、きりりとした表情や衣の上からもわかる体の輪郭が特徴的。春と秋の特別公開、冬至祭の秘仏御開帳で一般公開されます。


(写真提供:正暦寺)

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新薬師寺

拝観場所:新薬師寺 本堂

薬師如来を十二神将が囲む圧巻の姿

薬師如来坐像(やくしにょらいざぞう)

【国宝】 平安時代 一木造(体幹部分) 像高191cm

十二神将立像(じゅうにしんしょうりゅうぞう)

【国宝】 奈良時代 塑像 像高152~166cm(1体補作)


創建当時の姿を伝える本堂の中央に、どっしりと構え大きく目を見開いた薬師如来坐像。本尊を囲む天平期の十二神将立像は、日本最大で最古。表情をはじめ武器や甲冑もそれぞれ異なり、ポーズは躍動感があって今にも動き出しそうです。十二神将が円陣でにらみを利かし本尊を守る堂内は、凛とした荘厳な雰囲気。中田定観住職は「一尊ずつお参りしながら堂内を一周すると、仏像を360 度拝むことができ、背中側に残る美しい文様や彩色も見えますよ」と語ります。


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奈良市内の千年仏MAP

※発行:公益社団法人 奈良市観光協会

※このマップは、観光情報誌『ならり』vol.39に掲載されたものです。 私的使用を除き、無断複写・転載を禁じます。

※当記事は観光情報誌『ならり』vol.39からの抜粋です。掲載内容は2025年8月現在のものです

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